ずうっとずぶとくずうずうしく

いろいろあってミャンマー暮らし

強引火の如し

6000万円をくれないか!

 

小さい頃から、僕は押しに弱かった。押しに弱い、というか、頼られたり、お願いされたりすれば、なんとかしてやりたい、力になりたい、と思うタイプだった。まぁ、押しに弱いんだけど。

 

小学校の頃、遊戯王カードゲームが流行っていた頃、当時の友達に

100枚パック買ってよ!ピカピカしているヤツは数が少ないから俺がもらうけど、後のヤツはお前が全部もらっていいよ!

というなんの交渉にもなっていない横暴な注文をぶつけられた。

普通だったら

「いや、僕の金だから。なんでお前がレアカードもらおうとしてんだよ。ジャイアンかよ」

って華麗なるツッコミをするところを、なぜか僕は、「僕ももらえるんだ!」みたいな感覚になって、しかもそれが友達なんだ!みたいに錯覚していたバカだったから、「いいね!頼んでみる!!」とかノリノリだった。最終的には、給食の牛乳もタダであげる、とか言われて喜んでいたような気がする。

 

おばあちゃんが「それはダメだよ、バカだよ」とすごく真面目な声で凄んでくれなかったら、たぶん僕は牛乳で買収され、レアカードをばら撒くATMになるところだった。押しに弱いとかじゃなくて、何も考えていないバカだったようだ。その友達とは、もう連絡はしていない。

 

 

さすがに現在は、「6000万円をくれ!」と言われて、そっか、うん、わかった、とはならない。というか、持ってない。持っていたとしても、あげない。バカはもう卒業した。

 

事の発端は、ミャンマー人のクライアントからの電話だった。

なぁ、そういえばお前ミャンマー人のためにいろいろ頑張ってるんだったよな

ざっくり過ぎて否定も肯定もできなかったから、無視して「何が言いたいの?」と訊ねた。

いや、俺の知り合いのチン族が、なにかお金に困っていたからさ

「何するための?」

詳しくは知らないんだよね。でも、せっかくだったら紹介するから、会ってみてくれよ

 

よくわかんないけど、お金に困っているミャンマー人に会いに行くことになった。僕もそんな裕福ではないので、と言うか生きていくだけで精一杯なので、お金のことで相談されても特に何もできはしない。

まぁ、でもチン族のコミュニティにも興味あったので、せっかくだからということで、了承した。

おっけ、じゃあ明日ね!

「明日!?」

 

積極性でいえば、ミャンマー人も負けず劣らずだ。そこまでがっつり来られるとちょっとな、とは思いつつ、なんとか次の日予定をずらして空けておいた。

 

 

次の日。

約束の時間は、朝9時だった。普段の待ち合わせは、日本人のクライアントさんやお客さんとお会いする時は、ちょっといい場所で会おうと、セドナホテルの一階のロビーカフェで待ち合わせをする。見栄っ張りなので、とりあえず一杯5.75ドルくらいするコーヒーでも飲んで、え、これが普通ですけど?みたいな感じを出したいのだ。

でも、今回はお金で困っているっぽいチン族のミャンマー人と会うということだったので、いやぁ僕もあんまりお金ないです、すみません、えへへ、的な感じでドーナツ屋にした。ドーナツ屋だったら、コーヒー一杯は1ドルくらいなので、こんなもんだ。

 

8時50分にはドーナツ屋について、一杯1ドルのコーヒーと、クリームドーナツを頼んだ。ドーナツはクリームに限る。ミャンマーのドーナツは、最近食べられるようになった。昔、ガソリンみたいな味のするドーナツを食べて以来、こんなの食ってられっかよとイライラしていたけど、カラオケクラブで知りあった可愛いミャンマー人とデートに行ったときにドーナツをあーんしてもらってからは、大好きになった。もう好き嫌いなんてしないなんて言わないよ絶対。

 

さて、そんなこんなで9時半を回った。相変わらずミャンマー人の時間に対する感覚はドーナツ並みに甘い。甘すぎてさっぱりしたものが飲みたくなってきたので、ライムジュースを注文する。ライムジュースは、好きだ。お店に行ってフルーツジュースがあれば、例外なくライムジュースを注文する。甘酸っぱい、あの感じが、いろんなことを思い出させる。

 

ライムジュースが飲み終わった頃になって、チン族のおっさんが到着した。時計は10時を回っていた。次のミーティング、1時間半ほど遅れます、とメールを入れてから、笑顔でお迎えした。

 

こんにちは、急なおしかけでお会いしてくれて、本当にありがとう

すごく丁寧にご挨拶いただいた。1時間遅れたことに対しては特に何も言われなかったけど、物腰も低く、丁寧な方のようだった。

「いえ、こちらこそ、ご連絡いただきありがとうございました。私にできることがあれば、力になれるかと思います」

 

早速だけど、自己紹介をさせてくれないか、私はザラという

この辺りから、チン族の言葉になった。チン語と日本語のできる人が一緒にいたので、話はしやすかった。どうやら、ミャンマーの北西部に位置するチン州の、さらに奥地のインド国境に位置するRihという地域からやってきたコミュニティのようで、田舎の経済発展のためにいろいろやりたい!っていうグループのようだ。

 

チン州は、もともと緑が深々と広がっている地域で、まだ見ぬ生物たちがたくさん潜んでいるようなところだ。一部の地域は僕も通っているが、あまり詳しくはない。ただ、ほとんどが山岳地域であるため、彼らの生活できる地域は限られている。山の上で暮らすため、基本的には山とともに生きていくことが求められるが、昨今の人口増加や移住民のために、山を切り崩していかないと生活ができなくなっている。ところどころハゲてしまった山を見る事ができるが、そのために、自然の生物や植物の一部は減少、ないしは消滅してしまっている。おかげで、どんどん生活は苦しくなっていて、若い世代の人たちは出稼ぎで村や町から出て行ってしまっている。残された子供たちと老人たち、そして少しの大人たちが暮らすような村は、たくさんある。

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そんな地域でも、人が生活をしていくのだから、自然との付き合い方をうまく考えていかないといけない。人間と自然、どちらも共存できるような方法を探っていきたい、とザラは強く言い放った。

 

そのためには、やはり経済発展は必要なんだ。エコノミーとは、自然と人々がよりよく生きていくことだ。Economy and Ecologyだ!

だんだん興奮してきたザラは、演説を続ける。なんかいい感じにうまいこと言ってるけど、僕は、まだ「力になれると思います」のところから一言も喋っていない。そろそろ喋りたい。まだ自己紹介すらもしていない。

 

「その通りですね、ではまず僕の「そう!だから、私たちはこのような活動をしていきたいのだ

僕は合いの手を入れることしかできず、それを遮るように言いたいことを喋っていくザラ。通訳をしてくれているキンさんが若干引いている。そうしてザラは、鞄からドカドカと資料を取り出して、Rihのことを書いた文書を広げた。見せてくれたRih地域の情報は、すべてビルマ語で書かれていた。

「なるほど!うん、これって何が書かれ「この事業をやれば、年間これだけお金になる。これを翌年にも使っていく。このように回せば、1年で元が取れるんだ

「うん、うん、まぁ実際にみ「これで、20000人の人たちのマイクロファイナンスを運営していくんだ

だから、手始めに6000万円をくれないか!

 

理不尽か!!!