ずうっとずぶとくずうずうしく

いろいろあってミャンマー暮らし

せとないかい

「中原さんってさ」

知り合いの中で、僕のことを中原さんって呼ぶ人は少ない。よっぽど距離を取りたい人か、いい意味でビジネス的な付き合いをしてくれる人かのいずれかだ。

 

自分ルールがある人は少なくない。細川さんは、自分ルールがいっぱいある人だ。ここまではやる、ここからはやらない、そういう線引きを綺麗に引いている人だ。そういう風にしっかり律して行動ができる人を、大人と呼ぶのだろう。

 

僕は先に行動してしまうタイプなので、自分が決めていたルールを破ることは多い。行動の一貫性は、後から決めていく。だから矛盾した行動も、なんとなく後でまとまっていく。しかしそれでいいとも思っている。

 

「中原さんって、そういうフシがあるよね」

「そうすね」

「よし、フシがある選手権しよう」

「ちょっと言っている意味がよくわからない」

「中原さんってそうやってすぐわからないって言うフシがあるよね」

「え?…あ、そういうことか」

「物分かりいいやん」

「ちょっと今僕運転中なんで、後にしてもらっていいですか?」

「そうやって都合つけて逃げるフシがあるよな」

「ちょっと駐車場探します」

 

細川さんとのやりとりは、たぶん低く見積もって8割くらいが意味のない会話をしている。過言ではない。残りの2割は、仕事のことでアドバイスもらったり気づきをもらったりしているから良しとする。

 

「今日の夜なに食べる?」

「そうすねー、なんでもいいですけど」

「すぐこっちに意見委ねてくるやん、付き合って3年目くらいの彼女の如く」

「すみません。特になくて。じゃあちょっと行ったことないとこに行きましょう!せっかくなんで」

「お、今度はぐいぐい行くやん、付き合いたての彼女の如く」

「なんすか、その、なんとかの如くって。あと一貫して僕を彼女で例えるのやめて」

「うん、セトウツミって漫画知ってる?」

「せとうつみ?ですか?」

「高校生の瀬戸くんと内海くんが、河原でダラダラ喋る漫画なんだけど」

「ちょーつまんなそうですね」

「いや!シュールさが良いのよ。そう、まるで若き日のダリの如く」

「極みやないか」

「そのやりとりが面白くて」

「その、なんとかの如く、ってのが、漫画の中であるんですかね」

「そう。そのやりとりがとても知的でシュールで楽しいから、ぜひ中原さんにも読んでもらいたくて」

 

細川さんはそう言って、セトウツミの1から4巻までをスーツケースの中からいそいそと出してもってきた。準備いいな。どんな気持ちでスーツケースに荷物詰めてたんだ。

 

https://www.amazon.co.jp/dp/B00KQJHWWO/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

 

「この主人公の内海くんに似てるんだよね、中原さん」

「へぇ、どんなところが?」

「ちょっと知的で無慈悲で生意気で冷たいところ」

「ネガティヴ要素の方が多くないすか」

「ほら、ネガティヴって言うやん。ネガティブなんだよ、日本人の発音は」

「いや、ほら、そこはいいじゃないすか」

「うっつみんもそんな感じなんだよ、あと、器用貧乏だし」

「まだ読んでないのにすごく共感しますわ。あと、急に主人公に親しみ込めますやん」

「成績優秀だしイケメンだし才能もいろいろあるし」

「ちょっと、照れますね」

「自惚れるな」

「アメ渡しながらムチ振るうやん」

 

「そういえば、そろそろまた地方に行きたいな。あんまり遠いとこ行けないけど、近場で行けそうなとこない?」

「んー、ダイウーとかっすね」

「イオンが買収したスーパー?」

ダイエーではない。そうだとしてもそこ行きたいですか」

ミャンマーにあるなら行ってみたいな」

イオングループは、ミャンマーのローカル会社のオレンジってところと一緒に小売やってますけどね」

「本当にあんのか」

「じゃあ、明日ダイウー行きましょう。そこでちょうど営業もしたかったし」

「決めるの早いな。デートの行き先で悩みたくない彼氏の如く」

「あ、明日予定あったんだ。まぁいいや、そっちはキャンセルしよ」

「覆していくやん。友達の予定を優先して彼女を蔑ろにする彼氏の如く」

「今度は彼氏かい!」

 

 

僕らはKindleで続きの5巻から8巻まで買い終えてから、ダイウーに向かった。ダイウーは、ヤンゴンからだと2時間くらいかかる。その手前に、パヤージーという地域があるが、そこには、モーヨンジー湿地がある。

 

モーヨンジー湿地については、昔のブログで書いてたから、そっちを参照にしてもらえれば、と。

 

 

zoozooh.hateblo.jp

 

 

ダイウーは、この湿地から30分ほど北に向かう。米の生産が盛んな地域で、周辺にはゾウに乗れる村がある。ゾウに乗れるという体験は、ミャンマー国内でも少しずつ増えてきた。

 

ヤンゴンから5時間圏内に、僕が知っているだけでも5箇所ある。外国人へのコンテンツとしてはまだまだ弱い気はするが、生活環境を壊すことなく、活かしていってほしいところ。

 

「中原さん」

「はい」

「仕事、よろしくお願いしますね。営業だけではなく、お金の回収が大事になってくるから」

「そうですね」

「そして私を養ってください」

「スネすごい齧るやん」

「私の家族を養ってください」

「まるごとセットやん」

「そして島を買うんだ」

「お」

「瀬戸内海の島を」

「風呂敷大きく広げた後、隅っこに座るフシがあるやん」