ワクワク地方冒険記 中編
前回のあらすじ。
オレは一般成人男性、ずーずー。幼なじみで同級生の女なんていないけれど、学校調査の依頼を受けて、黒ずくめの男と一緒に、早朝のボートに乗り込んだ。ゆったりしたクルーズに夢中になっていたオレは、背後に過ぎ去っていく正しい道に気付かなかった。オレはなんとか男に正しい道を聞き出し、気がついたら体が縮んでしまっていた。
違った。もともと小さかった。
こっちが本当の前回
長時間船に乗っているので、尿意がすごかった。船の上から放尿するわけにもいかないし、クネクネとしながら近くの港を探した。こういう状況だと本当ににょうすることもできない。
しばらくして、なんとか港に到着した。時間は9時半。
ここは、港町Kan Bak(カンバック)。
蛇行中にガソリンがなくなったり、エンジントラブルを起こしたり、お腹がすいたり、お腹が壊れたり、物を売ったり買ったり、ラジバンダリするために皆が訪れる、小さな商業港だ。
こうやって色々なところから船で物が運ばれ、人が運ばれ、交流する。仕事の関係上、こういう部分にはかなり敏感になる。
「ザーニー、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「俺も俺も」
そそくさと船から飛び降り、トイレに駆け込んだ。
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船から放尿した方がよかった。
すっきりしないがすっきりしたので、改めて出発だ。
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時は12時を回った。午後になってようやく目的地のレイッアイッに到着した。出発からちょうど8時間経っていた。
見積もり通りにいかない。予定通りにいかない。そんなことはよくあることだ。よくあっては困るんだけど、だからと言ってイライラしてはいけない。じゃあどうするか、生産的に考えていきたい。
「あ、ここじゃなかった」
「ふざけるんじゃない!!!」
さらに30分後にくだって、ようやくレイッアイッに到着した。
竹でできた桟橋を渡り、村の中へ入っていく。地方に行くとよくあることだけど、いつも違う時代に来たようなギャップを受ける。
村の中は茅葺きの家ばかり。三匹の子豚のお話が教えてくれたのは、台風や災害から家族を守る為、しっかりした建物を建てなさい、ということだ。後で読み聞かせをしておこう。
外国人が来る、というのは事前に伝えていた。だからなのか、たくさんの人たちが桟橋に迎えに来てくれていた。
「こんなところまで外国人は来ねぇかんな。珍しいんじゃ」
「やっぱりそうだよな」
僕は村人の間を通り抜けた。しかし、村人たちはいつまでも船の方を見つめたままだった。
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レイッアイッは、村人は820人と、この辺りでは大きな村のようだ。村長といろいろと話をしたが、健康、教育、生活において、たくさんの問題を抱えているようだった。
小学校も、藁と竹とトタンの建物。小学1年生から5年生までの子供たちが、ここで勉強をしているようだ。雨季には雨漏り、乾季には日照りが、一年を通してシビアな環境を作り上げる。
生徒100人に対して、先生1人という環境は、別にミャンマーの田舎では珍しくない。しかも、この先生は、この村の先生ではなく、村民がお金を集めて外の村から先生を雇っているという状況だ。自分たちの生活費の中から、先生への費用をなんとか捻出できて、1人分。
かと言って、単に「先生に対する雇用費、生活費」を外部から支給してもらうだけでは解決しない。他にも、医者の定期検診や、農地の整備など、他にもお金は必要なんだ。
会社に就職して安定的に給料をもらうのとは違って、自分たちで生産をして、それを売ってお金を生み出さないと、この環境を維持していくどころか、もっと苦しくなっていくだけだ。
「こんな状況をなんとか打破していきたい」
村長は熱く語る。その強く握られた拳には、包帯が巻かれていた。昨日ぶつけて腫れてしまったらしい。痛そうだった。
表面に見える問題は、誰にでもわかりやすい。先生が足りない。学校の状態が悪い。こうした問題には、先生を増やせばいい。先生を雇用するお金を用意すればいい。学校を建て替えればいい。
でも、それで本当に良いのだろうか。その表面に見える問題の、もっと見えない部分に注目すると、公立学校に国や地方自治体から補助がなされていない。地方自治体が機能していない。村内の生産が、村で必要な支出を補えていない。などの問題もある。
さらに、調査をしていくに連れてわかっていくが、十分な生産性と流通の確保ができていない。村のコミュニティ内部で情報が十分に共有されていない。村民の課題をもっと具体的にできていない。なども問題だ。
こういった、簡単には解決できない、社会や皆で考えていかなくてはいけない問題のことを、社会課題と呼んでいる。
この社会課題をもっとわかりやすく示すために、僕はここにいる。皆でその問題を共有して、どうやって解決していくべきかを相談していく。方法がわからなければ、皆で考えればいい。どうしてもわからなければ、外からアイデアを持ち込めばいい。いろんな人たちが交流して、知り合って、考えていけば、現状は良くも悪くも変わっていく。悪く変わらないようにブレーキも必要だけど、こうした方向修正は、皆で立ち向かって考えていかなければいけない。
そのための仕事を、
「そうだ、学校の建て替えのお金はどうなったんじゃ」
「ちょっと、今いいところだったのに邪魔しないでよ」
「なんのことじゃ」
「いや、こっちの話。え、学校のお金、来てないの?」
「来てないの?意味がわからない。今回連絡くれたから、やっと持ってきたか、と思ってたんだ。待たされてイライラしていたが、今も持っていない、というのは、どういうことじゃ」
すごむ村長。こんなに凄まれたのは、中学校の頃に不良のたまり場にサッカーボールを蹴り込んだとき以来だった。あの時は、持ち前のコミュニケーション能力で、なんとか右ほほを腫らしただけで済んだ。
「詳しく、話してくれないか」
次回、「かず漏らす」