ワクワク地方冒険記 前編
それは、ある一通のメールだった。
「とある団体に寄付したんだが、その後、その報告がないんだ。実際になにが行われたのか、見てきてくれないか」
ミャンマーの田舎を訪れたことがある人なら誰でも知っていることだが、地方の学校は、なかなかにボロい。
こんな感じだ。三匹の子豚の長男が作って回ったんじゃないかってくらい、ワラだ。そんなところに、狼という名の台風が頻繁にやってくる。大変だと思う。
よっしゃ、そしたら寄付したるか!ということで寄付が行われたらしい。もうちょっといい環境で勉強できればいいね!プロジェクトということで始まった。
しかし、実態はどうなったのか。1年経った今でも音沙汰がない。便りがないのは元気な証拠、しかし実際に見てみたいものだ。というわけで、諸君、行ってきてくれ。
ということで行った村がここ。
地図の東側にYangonとあるのが、大都市ヤンゴンだ。そこから、西側に広がるこのエリアが、エーヤワディ管区といわれている。デルタ地帯で、穀倉地帯の代名詞だ。
西側に見える、Laputta(ラプッタ)というのが、今回の目的地。そこからLeikAik(レイッアイッ)という村とTuMyaung(トゥーミャウン)という村に行く。おっしゃ、高速道路使ってぶわーっと行ってガーッと下ってサーっと調査して、というわけにはいかないのはわかるだろう。ここは日本じゃないんだ。
というわけで、こいつが必要になる。
地図上のMyaungMya(ミャウンミャ)という村までは、車を4時間走らせればすむんだけど、そこからはこのボートで村まで下っていく。なるほど、なかなかぶっ飛んだ調査の始まりだ。
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昼前にヤンゴンを出て、夕方にはMyaungMyaに到着した。さて、明日はいよいよ調査だ。しっかり準備をしよう。
「ザーニー、ボートを借りられるだろうか」
「ガッテン承知」
*ザーニーはこちらから
相棒のザーニーが、道順を尋ねる。
「この村まで、何時間かかるんだ」
「あー、ここじゃったら、5時間でいけるんよ、大丈夫。ほら、川下に下っていくわけじゃけぇ。水の流れであーっちゅう間なんよ」
「それでも遠いな、明日の朝早めに出発しないとな」
ということで、なまったミャンマー船乗りに明朝4時の約束をして、その場を後にした。
この日は、ザーニーのおばあちゃんの家で泊まった。おばあちゃんと話が弾むわけもなく、明日も早いため、ソソクサと床に就いた。川の字で6人が並んで寝た。
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翌朝4時
調査チームの朝は早い。誰よりも早く起きて、寝静まった街に背をむける。MyaungMyaの船乗りたちは、既に準備を始めていた。
「おぉ、お前ら来たか、ワシの船にのれぃ」
ボートの中は水漏れがすごくてビショビショだった。こんなところに座れというのか。シベリアの足湯か。さすがにそれじゃ嫌だな、ということで水をかき出し、板を敷き、念のためビニルシートを広げることによって、快適な環境を作り出した。船乗りが感動していた。
さすがに朝が早すぎて、ザーニーは再び眠りについた。あたりは霧が立ち込めていて、沈没船や幽霊船でも出てきそうな雰囲気だ。
本当に出てきた。沈没船だった。
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7時になると、ようやく辺りが明るくなってくる。他の船が行き交う様子も見え始めた。この辺りの移動は、ほぼみんなボート。人も、物資も、米も、水も。村同士の交流のためには、ボートがないと成り立たない。
2008年5月に、ミャンマーを襲ったサイクロン「ナルギス」が直撃したのもちょうどこの地域だ。あの時はたくさんの命が失われた。天災というのは、いつ、どこで起きるかわからない。備えをする、ということを、僕らは先祖から学んできた。それでも、できることはやはり少ないのだ。
行き交う人たちに挨拶を重ねながら、大きな川を下っていく。ただ、まだ立ち寄る予定の港町に着かないことが、だんだんと僕の不安を膨らませていく。天気はいいのに雲行きが怪しくなっていく。果たして今、自分たちがどこにいるのかさえも、わからない。
ちなみに携帯電話の電波はここで途絶えてしまった。
8時半頃、ザーニーが目を覚まし、クマが巣から出てくるように、船から顔を出してきた。出発して、もうすぐ4時間半が経とうとしている頃。船乗りの言う「5時間くらい」がそろそろ見えてきてもいいんじゃないかとソワソワしている。だけど、一向に着く気配がない。
「そういやぁ、この辺りはワニが出るんじゃぁ」
もう気が気じゃない。
「あとどれくらいなんだ、ちょっとそこらへんの奴に聞いてみてくれよ」
「わかっとるわぃ、ちょっと待たんか」
「おーい、レイッアイッてこっちじゃーのぅ」
「あー、レイッアイッっちゅーたら、こっちじゃねーけぇ。1時間くれぇ戻って、その先を左じゃ。大きな川に出るけぇ、それを下っていきゃー着くよ。あと2時間くれぇだぁ」
「1時間ほど戻って、あと2時間くらいで」
「なるほど」
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「進もう!」
僕らの旅は始まったばかりだ。
というか日帰り、ちゃんとできるのか。
次回予告「かず「野宿?」」
お楽しみに!