ワクワク地方冒険記 後編
前回のあらすじ
その前
学校を建て替えるものとしてもらっていた寄付金の行方が、不明になっていた。村長によると、そんなものはここに届いていないということだった。あれから1年、ずっと待っていたんだろうか。健気な。
村長の眼差しが、僕をとらえて離さない。てっきり僕がお金を持ってきている人だったものだと思い込んでいたらしい。説得というか説明に時間がかかったが、なんとか理解してもらえた。僕らは外部の人間だってことを。
*美化されています。
あやうく村の生贄にされるところだった。たぶん、説明がうまくいかなかったら、村の中心に置かれている謎の石の上に磔にされていたことだろう。そんな人たちじゃないことは知っているが、そんなことになったって不思議ではない。
とにかく、寄付金の行方を追わなければいけないことがわかった。これ以上はこの村にいても仕方ない。収穫間際の稲穂のように、一心にこうべを垂れ、僕らは次の村に移動した。最後までじっと見つめてくる村人が、妙に心に残った。
次の村は、Tu Myaung(トゥーミャウン)という場所だ。
レイッアイッよりも小さな村で、川辺から上陸すると、広い農地に、ポツンポツンと茅葺き屋根の家が並んでいるだけだった。
ここは、村人470人。最寄りのレイッアイッから1時間ほどかかってしまうことから、相当孤立している場所であることがわかる。
「やぁ」
「へぇ、暑いですね」
日の光が強すぎて、さすがに皆、日向にはいられない。
「日本からの寄付金で、学校を建て替えるって話があったと思うんだけど」
「あー、うんうん、待ってたよ!」
「待ってた?」
「え、うん。お金持ってきてくれたんでしょ?」
出た。
一体どうなっているんだ。彼らが嘘をついているとは思えない。こんなことで嘘をついたってしょうがない、ことはないかもしれないけど、そんな感じには思えない。目をキラキラさせて、学校が綺麗に変わるのを楽しみにしている顔だ。これで嘘をついているんだったら、僕はむしろだまされたって構わない。
「え、ずーずー、お金持ってきたの?」
「そんなわけないでしょ、ザーニー。なんでボケたの今」
事情を聞いてみると、やっぱりお金が届いた形跡もなく、音沙汰も一切なかったようだ。村人たちのがっくりと肩を落とすさまを見て、いたたまれなくなった。
すまぬ。
帰りの船の中は、わりと静かだった。
ただの依頼で来たので、特に責任を負う必要もないのだが、このような現状になってしまって、複雑な気持ちだった。結局、彼らは行方不明のお金を使って、学校を建て替えることはできないだろう。どうせ、寄付を受けた団体が、別途使ってしまったのだろうから。
そうすると、彼らが苦しんでいる現状は何も変わらない。明日も、来月も、来年も、オオカミさんに吹き飛ばされそうな建物の中で、降り注ぐ暑い光に苦しむ毎日を送るんだろう。僕らには、そんなまとまったお金はない。あったとしても、こうやって苦しんでいる場所はここだけではない。きっと、他の場所にも似たような環境があって、支援を待っているにちがいない。ここだけを優先していいんだろうか。
でも、僕は知ってしまった。
こういう場所で、生きている人がいることを知ってしまった。
もう少しいい生活がしたい、と思っている人がいることを想像してしまった。
だったら、僕ができる方法で、なにかしらのアクションはできるんじゃないか。
寄付や助成金じゃなくて、ビジネスという形で、なるべく続けていける体制を作っていくやり方ができるんじゃないか。
こうした人たちを繋いでいく、そんな仕事を。
というわけで、新しい会社できました。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。